クロイノ鐵造
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カレカノ
創作系
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彼は孤高の鍛冶職人

 彼は目覚めると涙を流していた。どうやら夢を見ていたようだが、涙を流した理由は思い出せない。彼は一人笑っていた。

  寝室からリビングへ向かう。廊下の窓から工房の裏庭を見るとそこには廃棄された剣が山積みになっている。それを見て思わず彼は一人自嘲するように自然と笑っていた。リビングに入ると既に朝食が用意してあり湯気が出ている紅茶と焼きたてのパンがテーブルの上に置いてあった。彼の目には見えない友人達が用意してくれたものだ。彼は朝目覚める時間には正確ではないのにいつの日も出来立てが用意してある。友人は彼が目覚める時間を把握しているのか。いただきますと友人達に感謝しながら一人食事を始める。昨日寝るときにはカレンダーには一つの文字がなかったものだがバツ印が9月21日までしてあった。10月4日には丸い文字で創業100日の字がある。

「気が早くないか」と空にごちりながら彼は笑う。

返事は聞こえない。

食事を終えた彼は工房へ向かった。

 工房に入り彼は今日一日の作業予定を作るべく専用の机に向かう。オリハルコン武具の売れ行きが芳しくない。なによりここ一ヶ月経費の回収が間に合っていない。そろそろブラッディウム武具を作ってもらおうか。予定表にそれぞれどの作業をしてもらうか書いて壁に貼り付ける。物音一つしない工房では既にそれぞれの部屋で作業が始まっているだろう。どのように作業しているかを彼が部屋に見に行ってもきっとそこには誰もおらずインゴットと道具が置かれてるのみだろう。輸送を担当している彼らにいつもの注文をお願いして彼は工房を出て店頭へ向かう。

 綺麗に整えられ埃一つない店頭のいつも席に彼は座り、道行く人々を眺める。子供の手をつないで歩く家族や老夫婦、デートをしているカップルが歩いていく光景を彼は無言で見ていた。子供の一人が店頭に向かって友人に手を振っている。友人は手を振り返してあげているだろうか。子供はその後喜んでいたからきっとしてくれたのだろう。

 そのうち常連客の一人がやってきた。

「おはよう、店主さん。顔色が悪いようだけど大丈夫かい」笑顔が様になっているご老人で昔から贔屓にしてもらっている。

「おはようございます。お気遣いありがとうございます。私は元気ですよ」営業用の笑いで応える。

「そうかい、君の妖精も心配そうにしているじゃないか。あまり根を詰めてはならんよ。ああ、オリハルコンの剣を頂こうか。孫が欲しがっていてね」

「ありがとうございます」

 昼下がり、彼は裏庭の木陰で一人考えていた。彼の手にはノートがある。そこには数字とバツ印のみで何一つ彼を笑顔にしてくれることは書いていない。彼は呻いた。ノートを投げ捨て横になる。隣を見ると投げ捨てたはずのノートと皿にはホットドッグが置かれていた。ありがとうと彼は笑い、今日で最後にするよと笑いホットドッグを頬張った。木の枝が揺れる。

 工房へ戻ると剣が床に置いてあった。それは廃棄されるものだ。彼はしばらくその剣を無言で眺めて視線を感じて振り向き、再び床を見やると既にそれはなく代わりに小さな水滴があった。それは報告のひとつだ。彼はため息を噛み殺してノートにはバツ印を増やした。

 彼は既に答えを知っている。一人目は彼に答えを伝えていた。その答えは彼の予想通りであった。彼はその答えの証明をすべくこの一ヶ月を過ごしていた。次の者が楽をできるようにと。ノートを見ればそのバツ印が答えを物語っている。今日で最後にするよ。

 夜、彼は答えを友人に伝えた。今まで物音一つしなかった工房に重たいインゴットがひとりでに床に落ちる音がこだまする。工房が少し明るくなる。作業が始まった。部屋のドアには丸い字で立ち入り禁止の張り紙がある。ドアの下の隙間からは部屋の異様な明るさを伝えている。張り切りすぎだよと彼は笑った。

 すべての部屋が同じような異様な光景になっているのを横目に彼はその時を待った。彼はノートを視線を落とす。一人目を疑っているわけではない。間違いないはずだ、答えにたどり着いているはずだと一人言う。汗が滴る。気づけば机には小さなタオルと紅茶が置いてある。彼は笑ってありがとうと言う。できるなら彼は彼の友人を一人目にしたかった。

 部屋が一つずつ暗さを戻していく。彼は立ち上がり部屋の前に向かった。9つある部屋の前には剣が置かれていた。それぞれの剣を今まで以上に注意して観察する。違う、違う、これでもない。彼の手は震えが止まらない。最後の部屋に着いた。部屋の前には剣が置いてあるがこれでもない。9つ目の部屋はまだ明るい。そうか、まだ終わっていなかったか。彼はその部屋の前で待った。9つの部屋の前においてあった無数の剣たちは既になかった。

 遅い、すでに終えている時間ではないのか。彼はドアを見る。立ち入り禁止の張り紙がない。彼の顔には笑顔が浮かんでいた。ドアを開ける。夜だというのに昼間のようにその部屋は明るかった。部屋の真ん中の机には剣が置いてあった。光源はその剣からだった。彼は笑って涙した。

 彼の頭を小さな手がなでる。

 どこからかか

「ね?簡単でしょ」と聞こえる

「はは、ええ、簡単でしたね」

彼は答えを教えない。

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